会社売却コラム

2022.05.10

【M&A用語”CP”って何?】会社売却のプロがCP(クロージングの前提条件)を解説!!

売却専門M&Aアドバイザーが、会社経営者向けに「クロージングの前提条件(Condition Precedent)」をYouTube動画で解説!!

 

YouTube動画の書き起こし

 皆さん、こんにちは!ブルームキャピタルの宮崎です。よろしくお願いいたします。本日はクロージングの前提条件(CP)について解説していこうと思います。

 

 M&A って金銭と株式の交換の契約を締結しますよね。その契約から、不動産でいう現実の引渡し(現実の占有移転) 、要は対象会社株式の実際の譲渡までに、3週間後とか1カ月後とか時間を掛けることがあります。クロージングの前提条件には色んなことがあるんですけど、たとえば、どこか重要な取引先がいて、当該取引先との チェンジオブコントロール条項(COC条項) の論点で、「支配株主が変わっても取引関係を継続しますよ、みたいなことの承諾契約締結しておいて下さいね」といった話があります。この様に諸事項の最終手続きを充足するための期間を設け、約一カ月前後までにそれら諸問題を解決して初めてクロージングとするのが一般的です。そこで達成条件として設定される事項が、クロージングの前提条件(CP)と呼ばれたりします。

 

(詳細はYouTube動画で確認して頂くと良いと思いますが、)ここで、株式譲渡契約書の雛型のうちクロージングの前提に関する部分に着目して解説していきたいと思います。

 

「売主は保有する全株式を譲渡する。買主は、その対価として売主に〇〇円支払う【買主の義務】。」

 

といった形で買主の義務が規定されますが、ただし、買主の義務履行の前提条件として、✕✕カ月の間にクロージングの前提条件の充足が必要である、といった但書がなされます。そもそも、当該クロージングの前提条件は英語で、「 Condition(条件)」+ 「Precedent(先行)」という意味なので、買主義務の先行条件としてM&Aの実務家には「CP」と表現されることが多いです。

 

 では、実際にどういう風に規定されているか見ていきましょう。

 

「買主は、クロージング日において以下の各号の事由が全て充足されていることを前提条件として、第〇〇条に定める買主の売主らに対する義務を履行する。なお、買主は、その任意の裁量により、以下の各号の条件の全部又は一部を放棄することができる。」

 

 要は、この様な前提のもと金銭を支払いクロージングしますよ、そのためには売主は以下の様な条件を満たして下さいね、まあ何個か重要ではない事項が満たされていなくても、買主の裁量でクロージングを実行することも可能ですよ、という意味が上記の規定の背景です。

 

 では、実際どの様なことがM&Aの最終契約を締結してから、クロージングまでの義務として定められるのか説明していこうと思います。先ほども述べましたが、最終契約を締結したら株式譲渡が成功したと思いがちですが、ただ実際にはそうでもなくて、最終契約以後クロージング日までに、やるべきことを当事者に課されることがかなり多いと言えます。

 

 まず、一番目。

 

「(1)第〇〇条に定める売主らの表明および補償に違反がないこと。但し、当該違反により株式譲渡の実行又は対象会社の事業遂行に重大な悪影響が生じないと買主が判断した場合には、本号の前提条件は充足されたものとみなす。」

 

 「売主ら」ってことは売手側当事者が複数人のケースであることを意味しています。これは実際、弊社の様々な過去案件の最終契約書を混ぜて作成した雛型なのですが、ここで言いたいこととしては、売手側当事者の彼らが表明したことに違反がないこと、但し、当該違反により重要性基準で問題なければ大丈夫ですよ、という規定になります。最終契約時点でもクロージング日時点でも、 表明保証(Representations and Warranties) に引き続き重大な問題が発生していないことが1つ目の条件になります。

 

 次に、二番目。

 

「(2)売主らに本契約に定める重要な義務の重大な不履行又は違反が存在しないこと。」

 

 これは当然ですよね。最終契約以後クロージング日までに、重大な契約違反や義務違反があれば、その場合買主としては買収対価を支払えないよって話になりますから。

 

 次に、三番目。

 

「(3)本株式譲渡を制限又は禁止する旨のいかなる法令等又は司法・行政機関等の判断等も存在しないこと。」

 

 次に、四番目。

 

「(4)別紙〇〇に定める経営委任契約が締結され、変更されることなく有効に存続していること。」

 

 これは、旧オーナー経営者(売主)がそのまま経営者として残る前提なので、その際新たな支配株主の下で対象会社の経営に従事することになるので、その経営委任契約がちゃんと巻けていることは買主にとっては重要ですよね。まあ、キーマンズロック条項みたいなものです。キーマンズロックを2年するとしたら、その2年の権利義務をお互い定めておこうね、というのがこの経営委任契約です。

 

 次に、五番目。

 

「(5)対象会社の株主総会が、本株式譲渡を承諾する旨の決議をしていること。」

 

 非公開会社の場合、株式の譲渡というのは株主総会での譲渡承認が必要であるため、この法定な義務に則った手続きを正式に踏んでいることを確認する必要があります。

 

 次に、六番目。

 

「(6)対象会社の取締役である〇〇が、クロージング日をもって対象会社の取締役を辞任する旨の辞任届を対象会社に提出していること。」

 

 これは対象会社のとある取締役に買主としては買収を機に辞任してもらいたいと思っている案件の場合に規定される文言です。こういうことは多いとは言えませんが、実際にありまして、たとえば、あまり意欲的に働かない取締役がいて社長としてはこのままだと組織が厳しいと思っている場合に、この際取締役から退いてねということにもなるので、予め辞任届を提出しておいてねということになります。

 

 次に、七番目。

 

「(7)〇〇が実行されていること。」

 

 (1)~(6)で挙げたような事項以外にも、特定のM&A取引においては、契約締結後何らかの手続きの履行がクロージング日までに要求されることがあります。その場合に、この様な形で書かれたりする。

 

 さらに、八番目。

 

「(8)クロージング日までに、買主が、本譲渡価額を支払うために必要な資金として、金融機関から、買主の求める条件による融資が実行されていること。」

 

 これは、投資ファンドが買主になる場合には殆どのケースで挿入されるかなと思うんですが、買収資金のファイナンスができているということですね。投資ファンドが買主の場合、銀行等から借り入れるじゃないですか。借入れが失敗することもあるので、それがちゃんとできていることが条件に入ります。(ファイナンスアウト条項)

 

 また、九番目。

 

「(9)クロージング日までに、別紙〇の内容の誓約書を、対象会社に提出していること。」

 

 これは色々あるんですが、たとえば、オーナー経営者が今まで個人的な出費を会社負担で行っていたとしたら、そういった余計なコストを使わないといった誓約書をクロージング日までに書いてもらうことなんかも時々あったりするんですよ。

 

 で、十番目。

 

「(10)クロージング日までに、以下の書面が買主に交付されていること。

➀売主らの印鑑証明書の原本

➁本株式譲渡の承認を決議した株主総会の議事録の写し(対象会社の代表取締役による原本認証が付されたもの)

➂第〇条に定める辞任届の原本(✕が実印により押印したもの)

➃第〇条に定める誓約書の原本(✕が実印により押印したもの)

➄第〇条の登記手続き(株券発行会社化)が完了したことを証する書面

⑥第〇条に定める借入金のうち、金融機関からの借入れについて、いずれも全額弁済されており、一切の手数料、違約金その他金銭の支払い義務が発生していないことを称する書面

⑦第〇条に定める借入金のうち、役員からの借入れについて、いずれも全額弁済されていることを証する書面

⑧第〇条に定める株式会社✕✕との取引が解除されたことを証する書面

⑨第〇条の会社と✕✕氏との顧問契約が解除されたこと証する書面

⑩第〇条の貸付金が清算されたことを証する書面

⑪別紙〇に定める、✕✕氏から取得した著作人格権の放棄に係る合意書

 

(1)~(9)は「〇〇なことが起こっていること」をクロージングの前提条件(CP)としていましたが、(10)は「特定の書面が買主に交付されていること」という義務になります。

 

 ➀は良くありますよね、株式譲渡契約を締結した時に、その印鑑と印鑑証明の捺印が違ったら問題になるじゃないですか、この様なこともカバーすることになります。

 ➁に関しては、上部の(5)が適切に充足されていれば問題ないはずなんですが、譲渡承認が総会決議の会社の場合の例ですけども、その際、当該写しも提出することになります。

 ➂は、上部の(6)の写しの話です。また、➃は(9)の写しの話になります。

 ➄は、投資ファンドが買主としてM&A取引に臨む場合に、担保とかの関係で株券を発行しておいて下さいねと売主に要求する場合があります。したがってこの様な場合、通常現代において株券不発行会社が多いわけですが、定款変更及び登記をし株券不発行会社化するみたいなことを義務とするケースが非常に多いことが背景にある定めになります。投資ファンドが買主になって借入れをする時には多いかなと思います。

 ⑥は、借入金は全て返済していて、違約金とかそういうのがないよという話ですね。借入金も一括弁済すると精算金みたいなものが発生するケースがあって、そういうのがないですよ、と証明する書類が要求されます。

 ⑦は、役員からの借入れがある場合、役員の借入れの弁済を証明する書面ですね。

 ⑧は、買主にとって、この取引先はもしかしたら反社会的勢力かもしれないと判断するような会社があれば、クロージング日までに絶対に合意解約してね、という要求になります。

 ⑨は、売主(旧オーナー経営者)の親族等との間で、たとえば、実質的に会社の業務に絡んでない奥さんとの顧問契約がある、といった場合もあるので、その場合には親族等との顧問契約が解除された事実を証明する書面を開示することになります。

 ⑩に関しては、社長が役員貸付金をしていることも多いので、これらの清算に関する書面の提出になります。

 ⑪は、何か著作物を用いてビジネスをしている会社の場合、たとえば、著作権は発注側が持っているみたいなことになっていることもあるんですけど、著作人格権というのは実際著作した人に帰属する権利なんで、それを放棄してもらわないと、対象会社としては権利が完全に保全できたとも言えないという風に考える場合もあるので、当該著作人格権保有者に放棄してもらうことで、対象会社のビジネスで活用している特定の著作物に関する権利を確保することを目的に行われます。

 

 こういったことが全部充足されて初めて買主としては買収対価の支払いを実行する内容が、M&Aの最終契約には殆どの場合定められることになります。上記の事例は少ない方ですけどね、もっと色々と、たとえば特定の従業員に合意を取る等、詳細に定められるケースもありますが、この仮想事例以上に、実際の交渉現場では事細かに議論されることになります。

 

 じゃあ今日はこんな感じです。どうもありがとうございました。

タグ一覧
#【Web版】優良動画コンテンツの書き起こし記事

動画で学ぶ
会社売却

週間
宮崎レポート

M&A用語
データベース

『会社売却とバイアウト実務のすべて』書籍サポート

会社売却道場
トップに戻る