会社売却コラム

2022.07.06

【前編】化粧品・コスメ業界編~業界別M&A分析~

本動画は『化粧品・コスメ業界のM&A』の前編になります。売却専門M&Aアドバイザーとして数々の化粧品関連会社のセルアウトを支援してきた宮崎が、今、どの様な化粧品ビジネスが伸びて高い企業価値をつけているのか、化粧品・コスメ業界の経営者がどの様なポイントに着目し自社を伸ばしていけばいいのか、といったことを前編及び後編で解説しております。

 

化粧品・コスメ業界は新型コロナウイルス感染症の流行の影響を大きく受けた業界の1つです。 従来の美容部員によるタッチアップ式販売からEC化へと事業ポートフォリオを転換する必要性が急速に高まったり、巣ごもり生活の長期化に伴うスキンケアセグメントの成長、外国人旅行客(インバウンド)の減少に伴う売上減、そして何よりもGoogle等の検索エンジンではなく、消費者がYouTubeやInstagram等の場で化粧品やコスメの情報を積極的に収集する様になったことで、化粧品・コスメ業界の消費行動までも大きく様変わりしたといえます。

 

動画の書き起こし

00:00 導入

 今日は化粧品業界について解説いたします。化粧品業界には色々なプレーヤーがおりまして、「制度品系」(例:資生堂、花王など)は卸売問屋を通さずデパートや百貨店などと直接契約して売っている業種や、「一般品系」(例:エフティ資生堂、ミルボンなど)、「製薬系」(化粧品OEM・ODM系)、「EC・通販系」の4種類に大きく分けられると思います。

 

 ひとえに化粧品業界と申し上げても、業種ごとに結構M&Aアドバイザーの立場として、どの様なノウハウや手順でM&Aを進めて行けば良いのかについて助言する内容は変わってきます。たとえば、大手の制度化粧品メーカーと、EC・通販会社と、D2Cの会社と…と挙げれば全く要素が違うので、そこら辺をある種幅広く説明できればと思います。

 

 「制度品系」は、百貨店チャネル系の会社が該当しており、資生堂、花王、コーセーなどは美容部員が顧客に対面販売しているので売上高人件費率は大体20%弱で高い傾向にあります。次に「一般品系」は、卸チャネル系(解放流通)中心の会社が該当し、比較的、販売手数料などが高い傾向ですよね。

 

 また新規で顧客獲得していくことを前提にすれば、「EC系」であれば、当然ながら広告宣伝費がメインで、CPAや解約率などが大事になりますし、「通販系」であれば広告宣伝費よりも販売促進費などが高かったりします。最近「製薬系」の会社が化粧品OEM・ODM領域への参入が凄く、「EC系」に近いような販売戦略を取ることが多いと思います。

 

図4化粧品品目別出荷金額|化粧品出荷|日本化粧品工業連合会

 

 業界の全体像についてこちらをご覧下さい。経済産業省生産動態統計のデータを日本化粧品工業連合会がビジュアル化したものなのですが、2019年まではどのジャンルも比較的右肩上がりで伸びていたのですが、その主な成長要因だった中国人観光客のインバウンド効果が新型コロナ蔓延を機にストップしたのでこの様なグラフになっております。

 

 一方で、新型コロナ蔓延による消費者行動の変化を受け、化粧品業界全体としてEC化率が上昇傾向にある印象です。予てからECでの販売に重点を置いていた会社は業績が良くなっている傾向があるかと思いますが、M&Aのコンテキストで言うと、一時的なものか永続的なものかについて議論されることになると思います。

 

 元々、店頭でのタッチアップなどの実体験が重要で化粧品はEC向きではないとする意見が多かったのですが、実際は意外とECでの購買行動はそうでなく想定以上の継続率を記録したりして、そういう背景でD2C業者などが伸びているので比較的ECへのシフトは今後続くのではないかと個人的には思います。

 

 ただ、冒頭で申し上げた通り、「制度品系」や「一般品系」といったEC意外がメインの化粧品会社と、D2CなどEC系の会社とでは結構キードライバーが違います。この動画をご覧頂いている方が会社売却を検討されている経営者様であれば、どちらのグループに属するのかということを考えた上で、その属する会社の類似会社と比較をすることで何らかの良い示唆が得られるかもしれません。

 

 上場している類似会社などと比較をし、自社事業の効率性などを確認してみても良いかも知れません。企業価値評価にそれほど強い影響を与えるものではないですが、在庫をどれぐらい抱えるかがビジネスモデル上重要になる化粧品会社もあるので、そういう点も比較分析しても良いかなと感じます。

 

00:49 化粧品業界のM&Aに関するホットトピック

 最近異業種からの参入も多く、たとえば「製薬系」(化粧品OEM・ODM系)ですが、化粧品会社のM&A案件ですと買主として製薬会社が関心を示すことが多いのでホットトピックかなと思います。

 

 D2C系の会社売却案件の場合は、最近やや難航する傾向にあるなと思います。一般的な業態であれば、EBITDAで数~10億円程度稼いでいる会社はかなり希少性があるので、10倍のEBITDAマルチプルが付いてもおかしくないものです。

 

 そもそも、D2C系といっても定義はまちまちだと思いますが、ここでは幅広い解釈のもと話そうと思います。イメージ的には、自社ECサイトが販売チャネルの中核で、一部アフィリエイトやネット広告などでCPA(顧客獲得単価)を掛け顧客を獲得し、自社工場かファブレスかを問わず、企画から販売までのバリューチェーンの主活動の多くに携わっている企業です。

 

 社歴の浅いD2C系で商品が単一ブランドの様な化粧品会社の場合、似たような性質の会社が化粧品市場に新規参入して来ている現状がある以上、CPA競争みたいなことが起こり、CPAの改善は直ぐに天井を迎えるものなので、他の広告宣伝戦略を模索することになると思いますが、テレビ広告などのマス広告を利用できるほどの規模でもないので中々加速度的な成長を見込めなかったりもします。

 

 もちろん、小売店への営業成果として十分魅力的な”棚割り”を確保できて、マス広告やネット広告なども順調なレベルの会社とは話は別ですが、社歴の浅い個別ブランドの化粧品D2C会社の場合、それ程この様な会社は多くないのですよね。そういった事情もM&Aの買主は分かるので、評価が付きにくい点はありますよね。

 

 たとえば、これまでのCPA水準を結構抑えられていても、広告表現に係る薬機法改正の影響で、広告内での白衣着用が制限されたりする等といったことは、実はCPAにも凄く影響するため、M&Aの買主に高いリスクがあると見なされるケースもあるので、中々高いマルチプルが出にくくなっている事実があります。

 

 逆に高いマルチプルがそれでも出るケースは、大衆へのブランド認知が進み、購買行動を頻繁に変えることはしない高齢者層が顧客のメインで、ブランドロイヤリティも高いといった商品ブランドを扱っている会社だと、広告表現を多少変えても解約率など先の例よりもかなり少ないことも多いので、そういう会社の場合、凄いマルチプル(=企業価値評価額)がついたりします。

 

 要するに将来のフリーキャッシュフローの見立てが、ブレにくく安定性がある場合はバリュエーション評価額を見込められるので、この様な会社を目指していく必要もあるし、会社売却の際にはちゃんと説明していくことで、M&Aの成功に近づけると思います。

 

08:18 M&Aの際、貴社の価値をどう伝えるべきか

 先程も述べた様に業種により結構説明の仕方が変わります。百貨店に卸すような「制度品系」の会社であればM&A市場に売りに出ることは少ないですが、如何にして商圏を抑えているか、如何にして人件費を効率化できるか、そういう観点でM&Aの買主は見定めると思います。

 

 最近、M&Aの案件数として多いのは、「EC・D2C系」が多いのですが、自社ECサイトだけでなく様々な販売チャネルを有していたり、複数の商品やブランドラインを抱えているほうが、事業のリスクを分散できるので、その点を訴求することでハイバリュエーションになることが多いと思います。たとえば、「ブランドが少ないので一本足打法の様にしか評価できないです」という買主も結構多いので、会社売却に臨む前にその様な経営スタイルを変えておくことは大事かなという気はします。

 

 たとえば、ECにそれ程強みのない対象会社で、一般的な流通チャネルでの販売委託が凄い高い様な会社もあると思うんですけど、もしできる経営環境であればEC化率を徐々に高めていくことでマルチプルの向上が期待できます。小売で化粧品を売っている会社よりもEC系の会社の方がROIC等の観点で評価が高くなる傾向にあるからです。

 

 また、もし対象会社の商品が海外展開向きであれば追い風になり得ます。昨今、大手の化粧品会社が中華圏など海外のお客さん向けに化粧品を販売しているので、その日本製化粧品の海外市場での流行に乗せやすい商品かどうかは結構大きいと思うので、貴社の価値を訴求しやすいことがあると思います。

 

後編に続く)

 

続きのコンテンツのご紹介

後編動画の書き起こし記事

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