会社売却コラム

2022.05.11

【M&Aの売り手必見!】セルサイドDDとは?売却価値の推定と最大化

動画の書き起こし

 こんにちは、ブルームキャピタルの宮崎です。今日はセルサイドDDについて解説しようと思います。

 

 まずセルサイドDDの1つ目の目的としては、売却価値の推定と最大化にあります。これは弊社の様なセルサイドFAもそうですし、セルサイドFAを付けないで御自身でM&Aされる方もそうですけど、結局自分の会社や事業が幾らで売却できるのかの目算が付かないと支援も売却意思決定もできませんよね。

 

 特に弊社の様なM&Aアドバイザリー会社の場合、顧客のニーズを満たすことが仕事である以上、案件受託に先立ち専門的見地から相当深く調査をする必要があります。たとえば、オーナー社長の売却希望金額が30億だとして、10億程度の価値訴求が限界だという風に専門家側が分析するのであれば、それは顧客のニーズを満たせないことを自覚している訳ですので、M&Aの専門家として案件を受託すること自体が失礼ですよね。

 

 弊社でもその様な案件は受けないですし、売主さん側にとっても現実的に不可能な金額で売却活動することは逆効果になったりするので絶対に辞めた方が良いです。だからこそ、売却価値の推定が大事で、その推定をする中で売却価値の最大化に資する、適切な売主の行動・専門家の支援が明瞭化してきます。

 

 セルサイドDDの2つ目の目的は、取引価額の交渉やその他条件の交渉をする段階で重大な論争を引き起こし得る事項を、事前に炙り出し最適な解決策を準備していくことになります。次に3つ目の目的は、最適な売却戦略の策定にあります。

 

 これら3つの目的を達成するための手当がセルサイドDDになります。具体的に一般的な項目を全て列挙しようとすると、元々セルサイドDDは凄く範囲が広いもので本動画で解説しきることは絶対に無理でして、本動画ではザックリと解説いたします。

 

 大きく分けるのであれば通常のバイサイドDDと一緒で、①ビジネス面のセルサイドDD、②財務/会計/税務面のセルサイドDD、③法務面のセルサイドDDが主要なジャンルとして挙げられます。

 

 特に中小~中堅企業のM&A案件でセルサイドDDを実施する場合には、ビジネス面のセルサイドDD(①)は、セルサイドのプロジェクトチームであれば8割ぐらい比重を置いて調査すべきであるということが大事です。我々も特に事業(ビジネス)をみることには重点を置いてます。

 

 これは、相対方式で特定の買主とM&A案件が進んでいるからと言って、「特に重要な項目はこれです」というのはなくて、①ビジネス面、②財務/会計/税務面、③法務面の3つの区分の中でどの様なことを調査すべきかは案件の特性次第なので、個別で検討する必要があることは変わらないんですね。

 

 たとえばビジネスDDの場合、強みの把握、競合優位性、市場環境など、当たり前の項目を調査することは勿論ですが、オーナー経営者がまだ知らなかった『強み』、M&A市場で評価される『強み』などを専門家として炙り出してあげて、オーナー経営者に自覚してもらうことも専門家の理想的な支援だったりします。客観的にプロが評価することで見出された『強み』は、その後の交渉の要になることが多いので、客観的視点を入れて御自身の会社や事業を再認識することは大事になります。

 

 この様なポイントが色々あるのですが、ビジネス面でのセルサイドDD(①)で必ずやるべき事項という観点で話します。それは「財務モデル」に「経営戦略」を付加した「プロジェクション(Projection)」を構築する素材・根拠集めをするということです。簡単に言うと、損益計画の事業計画をベースに、業績・財務全般が将来10年間ほどでどの様に連動して変化するのかを分析したモデルのことを言います。

 

 大体、Excelやスプレッドシートで数十シートほどで作りますが、まず過去の実績データ(財務データだけでなく、KPIといった経営管理指標なども)を整理、分析し、その分析の結果を踏まえ、将来予測をしていくことになります。将来予測をしていく際には、最初に将来のP/L(損益計算書)から着手するのですが、そうするとB/S(貸借対照表)なども連鎖的に予測できますよね。

 

 たとえば、売上高が100億から200億に変化したら、それに応じて売掛金が10億から20億に変化するという様に連動して予測するんですけど、このB/Sの予測は極めて大事です。B/S項目の予測の精度によって企業価値算定額も大きく変わるので適切に予測されていることが大事です。また、それと同時にC/F計算書(キャッシュフロー計算書)の予測をしていくことになります。

 

 そうして最終的には、P/L、B/S、C/Fなど全部が連動したモデルが出来上がっていくことになります。プロジェクションの肝となるのはPLの中でも「売上の将来計画」です。大抵の場合、コストの計画は結構やりやすいのですが、人員計画なども売上高比率で定まることも多いので、難しいのは売上の将来予測なので、セルサイドDDで集めたビジネス面、財務面などの情報を基に、そこに如何ほど深く議論をしていくかが大事です。

 

 その様な突き詰めた議論をしていく中で、売主チームとして論理武装ができる訳です。実際のデータ(ファクト)を基にロジック(論理)を積み上げ、買主チームに対して納得感のある自社の価値訴求や説明が可能になります。

 

 次に財務/会計面についてです。M&A取引が成立した後に、買主の元で削減が可能コストの整理がポイントです。たとえば現オーナー社長が役員報酬を1億円貰っていたら、(精々、1~2千万円程度が普通なので)買主の元では1億円ほどの役員報酬は不要になるじゃないですか。そうすると、企業価値評価の際には予測値の利益を上方修正するように訴求しないと合理的ではありません。

 

 あと必ずチェックすべき項目はROIC(投下資本利益率)に係る分析ですよね。それはROIC改善策の検討を含みます。キャッシュフローに大きなインパクトを与えるので。加えて、偶発債務など簿外債務がどの程度ありそうかです。

 

 また、先ほどのプロジェクションの話ともリンクしますが、FCFのモデルを策定するとしたら、売上やコストでは測れないじゃないですか。売掛金や買掛金の変動、在庫の変動、設備投資の必要性にも大きく影響するので、財務的にどの要素が変動するとFCFが上下変動しやすいかなどを分析する必要はありますよね。

 

 結局財務的な数字は、会社が自主的にコントローラブルなものと、アンコントローラブルなものがあります。適正な在庫管理による圧縮等といった自助努力での改善が可能なものもあります。たとえば一方で、大企業数社が主な取引先の場合に契約条件を変え難いのであれば中々売掛金の回収スピードは改善できませんよね。

 

 コントローラブルなもので、プロジェクションを策定したときにFCFに大きく良い影響をもたらすものは何かが判別できれば、改善するアクションプランを立てるだけでも企業価値は向上するという要素があるので、そういう事項はよく見ます。

 

 更に言うと、リスク計量の観点もセルサイドDDでは重要です。リスクというのは頻繁に『割引率』で表現できます。ちょっと専門的ですが、通常だと割引率はβ(ベータ)を使って平均値を出すんですけど、それが小規模な未公開企業の評価で有用かというと、正直それだけだと中々役に立ちません。

 

 リスク指標は一般に割引率ですが、その会社の規模だったり、その会社の独特の要素によって変化するものなので、どの位のリスク指標で見れるかの追求などは、我々の場合は必ず行っています。将来のFCFが描ければ妥当な割引現在価値がすぐ求められるので。

 

 法務のセルサイドDDという観点だと、チェンジオブコントロール(COC)が重要な契約に入っていないか、現在の株主名簿に記載されている株主が真正かを証明できるか、業法違反がないかとかですかね。

 

 我々ブルームキャピタルはM&Aアドバイザリー会社なので、法務の専門家ではないため、「御社の場合はこの領域に特に秀でた〇〇弁護士法人に依頼して、この観点はレポートを出してもらった方が良いですね」という判断をした時には、レポートを出してもらって「法的にビジネスモデルの状況は問題ないか」、「ビジネスモデル上この様な法的欠陥があるので改善してから会社売却に動いた方が良いですよ」という法的助言を貰うんですよ。

 

 実際に直近5~6年でも、外部のプロの弁護士に診てもらって売却活動の前に事業の微調整を行った弊社の事例は5~6件ほどはありました。

 

 これまで挙げてきた例はごく一部なんですよ。だからセルサイドDDというのは全てを虱潰しに行おうと思ったら時間も足らないしコストも莫大に掛かるので現実的ではないですよね。M&Aのプロを雇う場合には、どこを優先的に見るべきか評価しセルサイドDDをすることが大事です。

 

 だからこそ、先ほども申し上げた様にプロジェクションを構築したり、ドライバー・『強味』がどこにあるかの分析は殆どのケースでやるべきことなので、「必ずやるべきこと」と「適宜必要に応じてやるべきこと」は別個にあると思います。対象会社の性質・調査すべきポイントを抑え、その柔軟に分析するセルサイドDD計画を立て実行することが大事です。

 

 ある事例を紹介すると、ある仲介業者の営業がきっかけで会社の売却活動を始めた、私の友人の社長さんがいて、希望するバリュエーションを付けてもらえるような買手を中々紹介してもらえないとのことで、弊社に助けを求めてくださったんですね。

 

 僕らが財務データを見たんですけど、その会社は中国から建築関係の資材を仕入れて日本で販売する輸入業を行っていて、中国の商慣行では「先払い」が一般的であることが多くて、それによりCFは悪化している状況だったんですね。でも実は、社長が仲介経由で交渉をしている買手企業には中国企業とのネットワークが結構ある状態だったんですよ。

 

 「仕入チャネルを改善すればCCCも改善され、CFも大きく改善するよね」と気付いて、丁度その買い手はDCF法で評価した様なレポートを何故か売手にも出してたんですよ。「この買手だったら運転資本・CCCの改善ができ、企業価値も大幅に向上しますよね」という議論を出してみたらどうですかと入れ知恵したんですよ。そしたら、買手が大企業な場合、忠実にDCFの結果を信じて買ったりするので、そのセカンドオピニオンがかなり有効に作用して、バリュエーションがグッと上がったという事例がありました。

 

 プロが少しの時間深く視るだけで、結果が全然違ったりするので、セルサイドDDを含め各専門家の目を信じてみることも重要です。

 

 今日はこの辺で終わりにします。もしご質問等ございましたら、コメント欄へお願いいたします。ご視聴ありがとうございました。

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