会社売却コラム

2022.05.11

【経営者必見】キーマンズロックの交渉術をM&Aのプロが解説!

セルサイド専門M&Aアドバイザーが、視聴者様からのご質問に答えました!!

ご質問内容

今の従業員の中から次期社長を選ぶとなると、すぐに任せられる者は正直いないと考えています。例えば買手側が次期社長候補を探してくれる、、、というような対応は可能なのでしょうか。また、キーマンズロック条項の交渉テクニックに関しても可能な範囲で大丈夫ですのでお教えください。

 

動画の書き起こし

こんにちは。ブルームキャピタルの宮崎です。宜しくお願いいたします。今日も質問に応えていきたいと思います。

 

 過去の弊社案件でも実際にキーマンズロックが課されなかった事例がありました。その案件は凄く有名な案件で、視聴者にも知っている方がいらっしゃるかもしれないです。

 

 その案件の場合、結局社長が凄く優秀な方だったので、経営陣として残存しても存在価値を十分に発揮されたと思うんですが、一方で、そこそこ組織も出来上がっていて、他の取締役も相当優秀な人達だったこともあって、社長が M&A 後直ぐ経営から退かれた後に、現在では当時の数十倍もの企業価値を形成しています。

 

 必ずしもキーマンズロックが無いことで、M&A後に対象会社が成長しない要因にはならないことは身をもって感じました。やはり、対象会社の魅力度・リスク・安定性・社長への依存度などといったことに加えて、買主の実力も相当重要になるかなと思います。

 

 当該案件では、買主は結構規模が大きめのベンチャー企業でしたが、買主の社長がバイサイドDD辺りから相当ディールに関与していました。当時明言はしていなかったですが、言動を思い返す限り、買収後に確実に成長を実現できるという自信があったのだと思いますし、実際その自信を現実にしており、数十億もの利益を生み出す事業に変貌を遂げている様です。その事例は、対象会社も買主も凄い会社だったと思います。

 

 他にもキーマンズロックが無かった事例が数えきれないほどあります。売主(オーナー経営者)がM&A交渉の際、「キーマンズロックなしでもいいですよ」というケースには大まかに2種類あります。実際本音としてそのように心から思っているパターンと、正直残った方が良いと感じているが出来る限り対象会社の経営から退きたいというパターンです。

 

 本当に自身が居なくても事業が回ると売主(オーナー経営者)が考えている場合、当然ながら100%正確な分析はできませんが、セルサイドFAとして売主の認識が正しいかを客観的に分析します。客観的評価のもと売主の認識が妥当であるという結論に至れば、そのことを買主に対して論理だてて説明できるよう準備をするわけです。

 

 勿論、オーナー経営者が今現状本格的に仕事をしていないからといって「社長が居なくても回る」と短絡的に結論付けられない要素もあります。”社長”という象徴・心の支えがあったからこそ会社が回ることもある訳なので。だからこそ、社長が業務に深く関わっていない現状及び経営リスクの低さを買主に理解してもらったうえで、買主側にも買収後にどの様なアクションプランで経営していくのかを突き詰めて考えてもらう必要があります。

 

 上記のケースでも実際そうでした。大体そういう場合は、対象会社の特定の人物(真のキーマン)が優秀であることを買主側も理解して、買収後に当該人物が第二創業的に社長に抜擢されることが多いですかね。

 

 他にも社長の親族で、全然違う異業種の会社のサラリーマンだった方が、買収後に対象会社の運営を引き継いでくれた事例があります。その方は確かP&Gのマーケティング部出身で、業種は違えど卓越したマーケティングの技術があり、何よりも売主(オーナー経営者)が親族なので彼を心から信用していたため、PMIに対象会社の新社長として起用されたという事例もありました。この件もキーマンズロックが殆どなかったと記憶しております。このように弊社の案件を振り返った時に、キーマンズロックが必ずしもある訳ではないことはご理解頂けると思います。

 

 ただ話を戻すと、結局大事なのは、会社を売却した後、オーナー経営者が居なくなっても会社が上手く回るのかどうかだと思います。度々、私は述べていますが、会社売却をする経営者が本来追求すべきこと、会社売却の成功とは何かについて、売却専門M&Aの経験を踏まえると会社売却の成功には4つの要件があると考えています。

 

 これから説明する4要件のうち一部を意識されないままM&Aを進めてしまう経営者が結構います。でも長期的視点に考えると、長年の経験から4要件全てを深く検討することが大事になります。1つ目は、高く売るという意味の「売却価額最大化」、これは当然です。2つ目は、「(売却価額以外の)売却条件最適化」であり、ここにキーマンズロックの話も関係しますし、PMIでの決裁ルール整備も関係しますし、売却後の役員報酬の設定など、色々なことが関係します。3つ目は「対象会社の長期的安定・成長」です。会社売却後、その会社が買主のもとで駄目になってしまったら、売主にとっても色々な悪影響に直結します。4つ目が「オーナー経営者自身の人生の最適化」になります。

 

 3つ目に述べた、「対象会社の長期的安定・成長」と言うのが、自分が抜けたら駄目になる、自分がいるから現時点で会社が安定・成長し良い成長を保っているということであれば、売主自身の為にも法的拘束力のあるキーマンズロック云々の話ではなく、ちゃんと引き継ぎをするために数年ぐらい主体的に残るよという姿勢を持つのは大事です。

 

 キーマンズロックの話は、なぜ売主が辞めるべきなのか、辞めたいのかといった背景に凄く影響します。もし、どうしても辞めたいと感じていて、その反面、売主個人への依存度が高い会社をM&A市場に出すのであれば買主候補に相談し解決策を見出してもらうことは大事です。主観的にならざるを得ない売主とは違い、客観的な視点をもって評価を下せる買主側と実際に交渉することで、事前に売主自身が認識していた以上のことが表面化しますし、交渉とともに良い解決策・アイデアを生み出していくのも、M&A交渉の技術です。

 

 もし視聴者の方で、現在進行形でアドバイザリー会社と共にM&Aディールを進めている人がいるのであれば、特に頭の良いアドバイザーに同席してもらい交渉の新たな切り口を出させると良いと思います。仮に、買主側はどうしても当該対象会社を買収したくキーマンズロックで経営者に一定期間残ってほしい、一方で、売主にはどうしても直ちに辞めないといけない理由がある、といっても何らかの架け橋はあるものです。ケースバイケースですが最適解を見つけ出す努力は大事です。

 

 先ほどの話に戻りますが、会社にオーナー経営者自身が残らなくても大丈夫な場合でしたら、どの様に買主候補に安心感を与えるかが肝になってきます。会社の価値創出のロジックについて、バリューチェーン機能をまず全部分解させると良いです。資料を作成する際に、企画機能がこうだ、製造機能がこうだ、・・・マーケティング機能がこうだ、といった資料をつくり、各責任者を当てはめていき、各責任者がほぼ単独で業務可能か否かを整理し纏めておき、場合によっては買主候補と個別の責任者で話してもらい、本当に各業務運営において社長に依存していないかを確認しておく、といったことは弊社も過去結構やりました。

 

 やはりM&A成立前なので、従業員面談などは売主が嫌がりがちですが、キーマンズロックが争点となった時には、業務ごとに社長依存度を確認することは凄く有効な手段になります。実際に、分解後の各機能に優秀な担当者がいるのであれば、社長の為についてきた等がなければ、ほぼほぼ買収後も問題ないですよね。 意外と売主自身が思っているほどそういうのはなかったりすることもあって、買主側の新しいマネジメント体制が確立されたら心機一転して仕事に励んでくれることも結構あるので、実はそこはあまり心配する必要がなかったりもします。

 

 他にも、社長が関与している業務も一部あるとしたら、それをマニュアル化することが大事です。そのノウハウ通りに正常に運用できれば、社長のリアルタイムな関与が実質的に不要であることの証明になります。

 

 また、「会社に顔すら出してない」というオーナー経営者さんは実は結構多い印象で、その場合、オーナー経営者がいつ出勤したかの記録を作成し買主に見せたりしたこともありました。

 

 話が変わりますが、契約として定められたキーマンズロック期間と、オーナー経営者自身が売却後何年間に亘り経営に関与したいと考えているかは、根本的に別であることを理解する必要があります。結構多くの経営者も、会社売却はするが別にすぐ辞める気はないと考えていらっしゃる場合が多く、たとえば、「キーマンズロックは2年だが、4~5年は経営に携わりたい」、「何かあったら大変だから長期的な事業承継を考え、現時点で株式譲渡をして法的な経営支配権は移しておきたい」などです。

 

 だからといって法的な義務としてのキーマンズロックを5~10年という常識外れの期間に設定しては駄目です。流石にそんな買主は滅多に見ないですが、人生を5年10年単位で縛られるというのは、おかしな話ですし、長くても2~3年が適正水準だと思います。

 

 その様な場合には、「別に2~3年で辞める気は全くないが、法的な義務としては2~3年が許容限界ラインです。また、それ以降の期間は法的拘束力を持たせない方が、双方にとっても都合が良いですし、信頼関係がある程度出来上がっていると思いますよ」などと伝えると良いと思います。

 

 逆に言うとこういう交渉もありですよね、「2~3年間、私が買主さんのもとで存在価値を発揮できていれば、充実感・楽しさを感じるはずですし、即刻引退する理由にはなりませんよね。それ以降も積極的に勤務できるかどうかは買主さんのマネジメント次第ですよ。」といった感じです。だから、一定の自由度・裁量や、経営へのインセンティブ、シナジーが徐々に実現し始めている状況などが良い形でできていれば、キーマンズロック期間後も自発的に辞めたりしないはずだという考え方もできる訳です。この様なことは正しい交渉スタンスだと思います。

 

 最後に、2~3年のキーマンズロックを買主から要求されているが、内心「そんなにいらないんじゃないか」と感じている人にとってのテクニックを紹介します。M&A 後の役員報酬を高く設定する様交渉するのもアリです。たとえば、通常であれば買主グループ企業の子会社役員の報酬が1000万円だとすると、2年キーマンズロックで勤務したとすると買主側は2000万円の負担になるわけですが、そこで敢えて「年間5000万円等であれば2~3年どころか3~4年でも良いですよ」といった交渉スタンスです。

 

 その代わり、希望売却価額の目線観を5000万円程度下げてあげるとします。譲渡価額を5000万下げた場合、買主からすると2年間で1億で、税効果を考えると実質7000万ぐらいですので、それよりも少ないくらいに希望売却価額を下げておき高めの役員報酬を許諾してもらうことで、分岐点の2~3年以降は、買主に「本当に旧オーナー経営者は必要なのか」、「今後も高い役員報酬を払い続けてまで残ってもらうべきなのか」と再考してもらえるような心理的効果を利用するイメージです。こういうやり方は、内心「そんなにいらないんじゃないか」と感じている売主にとって非常に有効です。

 

追加の質問

 これまで宮崎さんが担当された案件において、LOI等で提示されたキーマンズロック期間のうち最長期間はどのくらいでしたでしょうか?その時の対応も併せて伺いたいです。

 

 弊社の案件の最長期間であれば、色々と売主が考える前提条件をプロセスレター等を通じて買主に伝達していることもあって、買主から入札時の意向表明でそんなに変な条件を提示されることはあんまりないですかね。買主からの提案ベースで最長で「3年」だったと記憶しております。

 

 他の業界人の話を聞くところによると、「5年で提示された」、「10年で提示された」という話が、信じがたいようですが、稀に実際にあるようです。一般的な相場で10億の会社に100億の評価額をつけてくれるなら「10年でも良いかな…」と思ったりするかもしれませんが、それはその人の考え方次第ですからね。一般論として5年も10年もあり得ません。長くても2~3年です。これが相場だと思います。

 

そんなとこですかね。今回もご視聴ありがとうございました。

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