2020.06.13
会社売却とバイアウトそして事業承継の物語 23話 ~DD本番、株式譲渡契約準備~
オンサイトDDの風景① ~2018年6月27日~
オンサイトDDの準備がある程度整ってきたところで、N社およびS社に対し、DD要綱を送付し、日程をFIXした。あらかじめ受領していたDDにおける開示希望資料リストにほぼ応える形で資料を準備し、有無の回答を含めてリスト化したものを両社宛てに送付した。日程はそれぞれ調整し、重複しないようにDDスケジュールを設定した。
また、本 M&A 案件では株式譲渡契約書(最終契約書)のドラフト案を売却者側から提示することで、交渉期間を短縮しようという意図があったため、売却者側で早速ドラフト作成にあたった。作成にあたっては平井の意見を十分に反映させ、清水弁護士のチェックを受けながら、BA社も作成に協力した。
DD終了後、買収者候補により最終的な条件提示が行われるが、売却者側からあらかじめ提示された株式譲渡契約書(最終契約書)ドラフトに、買収者候補として修正したいポイントを追記・修正(マークアップ)し、それをもって最終条件提示とするケースも多い。今回のケースもこの形式で進めることにした。そして、7月1日からはじまるオンサイトDDを迎えることになった。
オンサイトDDの風景② ~2018年7月1日~
この日はN社によるDDから開始された。BA社が作成したDD要綱にて指示されたとおり、N社のメンバーおよびN社が任命した会計事務所・法律事務所メンバーら合計6名が、10時にFT社の会議室(「データルーム」ともいう)に集まった。川村から当日の流れや注意点の説明が行われた。
なお、DD中には売却者側のメンバーも可能な限り対応できるようにしておくことが重要だ。オンサイトDDでは、買収者候補のDDチームから様々な質問事項が出る。このとき、売却者側のメンバーがいれば細かいことは即座に対処できるのだ。
この日も、ひっきりなしに別室にいた川村の携帯が鳴り、DDチームによる追加の書類請求やコピー依頼等をこなしていった。平井等もDDチームに頻繁に呼び出され色々な説明をしていくうちに時間が過ぎ、ついに2日間のDDが終了した。DDで不明な点は取りまとめてもらい、3日後に設定されるマネジメント・インタビューで質問いただきたい旨を伝達した。
S社によるDDも同様に行われ、こちらも滞りなく終了した。ただ、ひとつN社とS社で異なる点があった。それはN社は同社の開発部門の担当取締役、部長クラスも同席のうえ、製品の深い部分まで調査していったのに対して、S社はそのプロセスがなかった点だ。
なお、株式譲渡契約書ドラフトについてはすでに売却者案が完成していたことから、この日の夜、川村からN社およびS社宛に電子データで送付した(ここでN社側に送付したドラフトは付録ファイル「DA_draft.pdf」をダウンロードしてご覧いただける)。最終条件提示にあたっては、この契約書ドラフトファイルを変更履歴付きで修正する形で行ってほしい旨も伝えた。
なお、株式譲渡契約書には当然、取引に伴う株式譲渡対価や場合によっては算定企業価値等の記載がなされる。付録ファイルの通り、N社向けのドラフト案には2,100,000,000円の企業価値を基準に計算された本件株式の譲渡代金である金1,560,960,000円という数値が記載された。
なお、これは平井の持分である800株(持株比率:80%)の対価が1,560,960,000円(株価は1,951,200円)であることを意味するが、この計算式は以下のとおりだ。ホライズンが保有する種類株式(優先株式)の優先分配も考慮した結果だ。
───────────────────────
〈平井にかかる株式譲渡対価の計算式〉
1.株主価値は、企業価値21億円-有利子負債28.8百万円=2,071,200,000円で算定される。
2.株主価値から、優先株主に優先的に分配される1.2億円を控除した1,951,200,000円(=2,071,200,000円-1.2億円)を優先株主・普通株主を併せた全株主で持株比率に応じて分け合う形となる。
3.よって、1,951,200,000円×80%=1,560,960,000円が平井の株式譲渡対価となる。
───────────────────────
※なお、ホライズンの普通株式および種類株式の株式譲渡対価合計額は、優先的に分配される1.2億円と、1,951,200,000円に持株比率である20%を乗じた金額を合算した510,240,000円となり、平井、ホライズン双方の対価を合算すると株主価値である2,071,200,000円となります。また、このような譲渡代金の計算を行う場合、原則として有利子負債等のBS指標は取引日時点の値を用いますが、本事例では便宜上2018年3月末における数値を代用しています。
(執筆及び監修:株式会社ブルームキャピタル 代表取締役 宮崎 淳平)