株式移転
株式移転とは、組織再編行為の一種で、1つまたは複数の、対象会社(株式移転完全子会社)を含む株式会社が、その発行済株式の全部を新たに設立する株式会社(株式移転完全親会社)に取得させ、新たに設立する株式会社(株式移転完全親会社)の株式をそれらの株式移転完全子会社の株主に交付する手法により持株会社を組成するスキームをいいます。
スキームの解説
株式移転により新設された株式移転完全親会社の株式は、対象会社を含む株式会社(株式移転完全子会社)の既存株主(図で言うA社株主およびB社株主)に対して、移転対価として割り当てられることになります。こちらも、100%の親子関係が構築されます。
なお、この移転の対価として認められているのは他の組織再編手法と異なり「株式移転完全親会社株式」のみとなります(新設分割も同様に対価の柔軟化は認められていない)。なぜなら、株式移転完全親会社株式を対価としなければ、その会社自体が設立できないからです。しかし、一定の条件のもと、追加的に株式移転完全親会社の社債、新株予約権等の交付はできます。
株式移転はやや特殊なケースに用いられます。
株式移転は、①単独で親会社(純粋持株会社)を新設するケースと、②複数の対象会社が1つの親会社(純粋持株会社)を新設するケースがあります。
①の場合、株式移転により純粋持株会社を設立したあとに他の会社を買収するなどによりホールディングス経営を行うといったことができるようになります。
②は特に「共同株式移転」と呼ばれます。「株式移転」は会社法の条文上は株式交換と同章で扱われていますが、共同株式移転について実態的な効果(2つの会社が1つの集合体になるということ)を考える場合、「合併」との実質的な類似性は注目すべきポイントです。
共同株式移転は、法的にはまったく異なる行為ですが、誤解を恐れずに言えば「合併の両当事会社が消滅せず存続するスキーム」という実務的な捉え方もできます。合併と類似した効果を生む一方で、法人自体はそれぞれ独立したままで経営統合できる点が特徴です。
株式移転の特徴
- 合併は消滅会社となる対象会社の権利義務関係の包括承継であるのに対し、株式移転は対象会社の完全子会社化による株式の承継という形態。したがって、新株予約権付社債を承継する場合を除き、合併の場合にみられる対象会社(消滅会社)の権利義務の承継問題がなく債権者保護手続き等が不要
- 合併と異なり、あくまで「新会社の設立」となり、「当事者の法人は(合併のように消滅せずに)残存する」ことから、純粋持株会社の役員人事等をスムーズに進めやすくなるなど、「緩やか」に統合が可能。また、これにより人事制度等の統合なども独立して行うことが可能