M&A仲介業

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 M&A仲介業とは、マッチング・紹介機能を主要業務とし、取引当事者(売主と買主)の双方と契約し妥協点を探る調整役(仲裁役)として、双方から仲介手数料を獲得する「両手取り」のビジネスモデルをいいます。

 

 M&A仲介業は、「波風を立てること」を嫌い、「円満な取引」を好む、日本特有の商慣行のもと発展したビジネスモデルです。

 

 迅速的かつ平穏無事な事業承継・M&A取引の実現が望ましい場合や、案件規模が極めて小さく M&A の専門家であるFA(ファイナンシャルアドバイザー)に依頼できない場合などに、M&A仲介業者が選択されます。

売主なら絶対に理解すべきM&A仲介業の問題点

①利益相反性

 M&A仲介業が語られる上で「利益相反性」は重要な論点です。M&A仲介業者は、民法上の双方代理に該当しない様に、「媒介」者としてマッチング・紹介機能に限定してサービスを提供していると主張します。

 

 故に、「最適な相手とのマッチング」等が常套句であり、中小・零細企業の事業承継に悩む経営者を惹きつける最大のポイントがここにある訳です。

 

 では、実状は如何ほどでしょうか。売主の立場では、「①売主と買主の間」、「②売主とM&A仲介業者の間」の2種類の利益相反性を考慮する必要があります。

 

 まず、前者の「①売主と買主の間」に発生する利益相反性は、取引対価や取引条件等に係るものになり、会社や事業の唯一無二性や取引構造上の理由から発生します。

 

 当然ながら双方の株主に対する善管注意義務等の観点から、M&A取引に際して、売主側取締役には「可能な限り高く」、買主側取締役には「可能な限り安く」などというインセンティブが発生するため、多くの事項において、双方の利害が明確に対立します。

 

故に仲介業者は、一方に有利な行為を実施すると、他方が不利になるため、民法上の双方代理に該当しないよう、主要な提供サービスをマッチング・紹介機能とし、公平性・中立性の維持が要求されます。

 

しかしながら現実問題として、M&A仲介業者にとって「次」の顧客となり得るのは、殆どの場合、「買主」になるため、当然ながら検討・交渉プロセス、最終的な取引対価や取引条件等に至るまで、買主優先の方針で推進されます。

 

なぜなら、買主にとってお得意様のM&A仲介業者になれれば、今後また別の案件を受託できる可能性が高まるため、暗黙知としての「お得意様割り」を許容し、案件の破談(ディールブレイク)が起こらない範囲で、買主有利(売主不利)の方針が取られます。

 

また、その様なM&A仲介業者の事情を理解している買主は、売主の期待値をコントロールし売却希望価額を引き下げるようM&A仲介業者に明示的/暗示的に要求するため、殆どの場合において公平性・中立性は維持されません。

 

 この様なことから、M&Aに関する理解やM&A仲介業界の事情に関して比較的疎い売主にとって、その様な事情を知らないまま煮え湯を飲まされ、安値で買い叩かれる事案が頻発し、問題視されています。

 

 仮にその様な事情を売主が知っていたとしても、中小・零細企業においては「売主=オーナー経営者」(所有と経営一致)の関係が成立するケースが殆どで、事業承継に悩む売主にとっては、妥協するか、廃業するかの二択を突き付けられることになります。

 

 つまり、売主の為に「最適な相手」を見つける理由はなく、M&A仲介業者にとって「都合の良い相手」とのマッチングになります。

 

 次に、後者の「②売主とM&A仲介業者の間」に発生する利益相反性とは、売主が100%売却以外の選択肢を考慮している場合に発生します。

 

 一般にM&A仲介業者の支払手数料の決定方法として採用されているものはレーマン方式ですが、買収金額等を母数に計算される場合には、M&A仲介業者の「取り分」を少しでも高めるため、何かと理由を付けてより多くの株式を放出するよう迫られます。

 

 たとえば、買収金額が株式保有割合1%=1000万円として、買収金額の5%が双方の手数料として取られる場合には、100%売却だと、1000万×100×(5%+95%×5%)で9750万円の仲介手数料になりますが、60%売却だと、1000万×60×(5%+95%×5%)で5850万円の仲介手数料になります。

 

 したがって、「売主の意向を尊重する相手」ではなく、「より強い支配関係を築きたい相手」にしか打診されません。

 

 以上のことからお分かり頂けるように、M&A仲介業者の主たる業務であるマッチング・紹介機能にもM&A仲介業者の「都合」が介入し、主たる目的をM&A仲介方式での成約に勝手に置換されるため、売主にとって「最適な相手」を見つける努力すらされません。

②高額な仲介手数料

 両手取りのM&Aを成約させた場合、単純計算で約2倍の儲けになりますが、この構造は高度なM&A取引を売主と買主の仲を取り持ちながら成約させた対価であるとして主張されます。

 

 しかしながら、登場人物が「買主、仲介業者、売主の場合」と「買主、売却側FA、売主の場合」とでは、売主の最終的な売主の手取額から逆算すると、実は買主の仲介手数料も売主が負担するということになります。

 

 また専門性という観点でも、一般に「M&A取引には、財務・法務・税務・会計・経営等々の知識やスキルが必要」と言われていますが、M&A仲介業者が主として提供するサービスは、「マッチングさせるための営業」になります。

 

 当然ながら売却対象の事業/企業の価値を正確に見極め、経済合理的な取引を実現するためには、多くの分野の専門家を巻き込む必要があるので相当なコストが掛かります。

 

 一方、M&A仲介業者は、コストの係るディールプロセスを簡略化し、マッチング・紹介機能に高額な手数料を要求することで、その分スピーディーに低コストで成約を実現し、その様な案件を効率的に繰り返すことで儲ける仕組みになります。

 

 このため、M&A仲介業者では、営業成績に応じてインセンティブ制度が設計されるため、案件当事者同士の今後は度外視され、自身のボーナスのことしか考えないわけです。

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