EV/EBITDA倍率法(EBITDAマルチプル法)
EV/EBITDA倍率法(EBITDAマルチプル法)とは、類似会社比較法(Comps)の中でもM&A実務における企業価値算定で最も一般的に用いられている評価方法です。ここで、「EV」とは「事業価値」を指し、「EBITDA」は「営業利益+償却費」という簡易的算式で求めることが可能です。
EBITDAマルチプル法では、「対象会社のEBITDAに対して、何倍のEVが妥当な対象会社のEVであろうか?」という視点から上場類似会社の当該倍率平均値または中央値等により適正倍率を検討し、当該倍率を対象会社のEBITDAに乗じることで「EV」を算出します。
EV/EBITDA倍率法ならではの特徴
他の類似会社比較法の算定手法と比較して、EV/EBITDA倍率法は以下のような理由からバリュエーション実務で重宝されています。
- EBITDAがキャッシュフローに類似する性質をもつ
- 各国間の税制・償却制度等の違いに影響を受けにくい
- 支払利息支払い前であり株主・債権者双方に分配されるべき利益指標である(資本構成に影響されない)
- 特別損益項目等の特殊要因の影響を受けにくい
また、類似会社比較法の一種である以上、PER倍率やPSR倍率等と共通のメリット・デメリットを有しています。詳しくはこちらをご参照ください。
絶対に抑えるべきポイント
EV/EBITDA倍率法は、類似会社の情報を基に対象会社の市場での相対的な価値を推計します。つまり、この手法はあくまでも「簡便法」で、対象会社の真の価値を算出するものではありません。
買主候補者は、M&Aの初期検討段階で買収価額の目安立てをする際に、対象会社の「相場的な価値」を算出できる「EV/EBITDA倍率法」を用います。
また、対象会社の特徴を最もよく反映させられる「DCF法」を用いてバリュエーションを行った場合でも、その算定額が「相場観」とかけ離れていないかの確認に「EV/EBITDA倍率法」を使用します。
この様にM&A実務の世界では、様々な評価手法を時と場合に応じて使い分けながら対象会社の企業価値を求めていきます。
だからこそ、会社売却を検討されているオーナー経営者にとって、「EV/EBITDA倍率は〇〇倍が相場だから、〇〇倍で買わせて欲しい。」と買収交渉してくる会社は、警戒が必要です。その様な買主の多くが「対象会社の真の価値」を見極めた上で、「相場観」を利用し安く買い叩こうという思惑で買収交渉しているからです。
ここでの「EV」とは何か
なお、「EV/EBITDA倍率」を議論する場合、「EV」を「事業価値」として定義している場合もあれば、「企業価値」として定義している場合もあります。本来はEBITDAが「事業および事業資産からもたらされる利益指標」であることに鑑みると、平仄を合わせようと思えば「EV」=「事業価値」とすべきです。
「企業価値」は事業に関係ない非事業資産も含めた価値であり、会社によりその保有量は異なるからです。しかし、類似会社のEV/EBITDA倍率の分子である「EV」が「企業価値」となっていれば、それにならって「EV」=「企業価値」とみなして評価しなければ算定を誤ってしまいます。
本来「EV」=「事業価値」とすべきですが、実務では「EV/EBITDA」=「企業価値/EBITDA」として用いられている場合もある点にはご注意ください。「EV」を「事業価値」とみなす場合は、そこから「ネットデット」を控除することで「株主価値」を求めますが、「EV」を「企業価値」とみなす場合には、有利子負債等のみを控除することで「株主価値」を求めます。