EBIT(イービット/利払前税引前利益)

« Back to Glossary Index

 EBIT(イービット)とは、”Earnings Before Interest and Taxes”の略で、利払前/税引前利益を指す指標です。このEBITという利益概念は様々な解釈がなされていますが、本記事では以下のような算定式で紹介いたします。

EBITの算定式

EBIT=営業利益+経常的に発生する営業外損益項目(だだし、支払利息を除く)

※ただし、経常的に発生する損益は通常、営業外や特別項目に計上されることは少ないため、簡易的に営業利益がEBITとほぼ同じ概念であると考えてよい場合が多い。

 

EBITとEBITDAの関係と比較

 EBITとEBITDAには密接な関係があります。ここでEBITDAの算定式を紹介します。

EBIT+Depriciation+Amotization=EBITDA

 

 一方で、EBITとEBITDAを近い概念として捉えることは実は適切な理解ではございません。EBITとEBITDAは、真逆の性質を有する持つこともあるからです。ケースバイケースですが、EBITのメリットは時にEBITDAのデメリットになり、EBITのデメリットはEBITDAのメリットになります。

EBITのメリット

①スタートアップ企業や多額の有利子負債を抱える企業に適している

 借入金に係る支払利息を財務分析に反映できるため、深いJカーブを掘るようなビジネスモデルのスタートアップ企業や、事業拡大に向け有利子負債により多額の資金調達を実施している企業に適する指標です。事業本来の付加価値力を評価することができます。

 

②人事評価において賞与の査定に用いることができる

 業績連動型のインセンティブ報酬設計等を採用している企業において、賞与原資を算出する際の重要な業績指標として活用されることがあります。  

 

 EBITは事業の付加価値の創出額を示す指標の一つであるため、事業部長や従業員等の成果に対する意識を高める効果が期待されます。

 

③企業の一時的な臨時異常が反映されない

 経常利益や当期純利益と比較すると、EBITは企業の臨時異常の影響を受けないため、企業の付加価値性を図ることができます。

EBITのデメリット

①異なる会計基準間/業種間での比較が困難

 準拠する会計基準が異なる場合、EBITやEV/EBIT倍率での単純比較では整合性の取れた比較検討ができません。特にクロスボーダーでのM&A案件では、DepriciationやAmotizationに関する会計ルールが異なることも珍しくない為、注意が必要です。

 

 また、準拠する会計基準が同じでも業種ごとで異なるDepriciationやAmotizationの会計処理が適用されることも多いので、このような場合もEBITを用いた比較検討は適しません。

 

②事業本来の付加価値力の期間比較分析に不向き 

 EBITは、収益費用対応の会計原則に基づいて各年度に対応するDepriciationが反映された後の指標です。各期に期間按分されたDepriciationの金額分、EBITが圧縮されてしまいます。

 

 則ち、「各期における純粋な事業の付加価値力の変化」のみに着目して評価を実施する場合、EBITを採用してしまうと過去の設備投資の影響を受けてしまうという事です。

 

③同じEBITの額でも事業の経営状況は異なる

 EBITでは、支払利息(営業外費用)を全額、財務活動に係る費用として捉えます。しかしながら、企業が借入による資金調達を実施する狙いは様々です。

 

 例えば、事業拡大に向け運転資金を100万円分増加させた場合のEBITと、資金繰りが逼迫し追加で100万円分借り入れた場合のEBITは、数値上同じでも事業の経営状況は異なります。

 

④財務基盤を圧迫する可能性もある

 EBITに反映されない非経常的な営業外損失や多額の支払利息が発生した場合、人事評価にEBIT指標を組み込んでいる企業にとって、賞与原資が財務基盤の安全性を逼迫させる可能性があります。

 

マルチプル法におけるEBITの性格

 対象会社の事業価値(EV)を類似事業のEV/EBIT倍率を利用して算出する場合、以下の前提条件が根底にあることを理解しておく必要があります。

~重要な前提条件~

 評価対象会社の事業運営上、保有する償却性資産の全部又は大半が更新投資が必要

つまり、償却性資産が無形か有形であるかを問わず、将来に亘り多額の無形資産償却費(ソフトウェア償却費等)又は減価償却費が発生する様な事業(リース会社など)の場合、非現金支出項目を余剰CFとみなしてしまうと、事業価値の過大評価に繋がります。

 

DCF法におけるEBITの役割(NOPLATとEBIT)

 DCF法では主に事業価値を直接評価するため、その材料となるFCFには「事業外のCF」を含めません(非経常的な営業外損益や特別損益等を含めない)。このため、EBITを起点にFCFが計算されます。

~NOPLAT/FCF算定式~

EBIT – EBITに関連する税金= NOPLAT

※より厳密に均等割等の実効税率により計算されるもの以外を減算する場合もある。

NOPLAT + 減価償却費 – 設備投資 ± 運転資本増減額 = FCF

 

 

 一方、事業外のCFの発生が見込まれる場合で、それらが資産または負債的な性質をもつものに由来する場合、それらを「非事業資産」または「有利子負債等」と捉え事業価値→企業価値→株主価値を計算する過程で影響を加味します。

 

 次に重要なのは、EBITが「金利支払前」の指標である点です。DCF法においては、金利支払前の(つまり、債権者・株主に帰属するキャッシュフローの分配前の)CFを事業活動から生まれるFCFと定義し、当該FCFを割り引くことで事業価値→企業価値を算出し、それを債権者価値(有利子負債等)と株主価値に分けることで株主価値を算定するというアプローチがとられます。

 

 なお、万が一、営業利益より下に表示される営業外損益項目等において、将来継続すると考えられる費用・収益項目が計上されている場合には、それら営業外項目を「EBIT」に含める処理を行う場合もあります。ただし、「特別損益項目」「支払利息」「受取利息」「事業撤退費用」等の一時的な費用項目はEBITには含めません。

M&A 用語集に戻る

動画で学ぶ
会社売却

週間
宮崎レポート

M&A用語
データベース

『会社売却とバイアウト実務のすべて』書籍サポート

会社売却道場
トップに戻る