株式対価М&A(自社株対価М&A)
株式対価М&A(自社株対価М&A)とは、令和元年会社法改正により導入された株式交付制度を活用した株式交付親会社株式等を対価とする組織再編行為です。改正以前は、株式交換スキームや現物出資スキームを総称として、株式対価М&Aと呼ばれていました。
実務上、株式対価М&Aは、買収資金の調達負担を軽減し、株式交換の代替手法として活用できる等といった利点があると考えられています。
令和元年会社法改正と株式交付制度
株式交付制度とは、株式交付親会社が自社株を対価として、株式交付子会社の株式を収得し、完全(100%)子会社化とならない範囲で株式交付子会社を子会社化する制度です。その性質は、➀部分的な株式交換と➁株式交付子会社株式を現物出資財産とする株式交付親会社の募集株式の発行等に大別できます。
➀部分的な株式交換
そもそも、株式交換は100%親子関係(完全支配関係)を形成する手法であり、一気に対象会社を完全子会社化することを前提とした買収スキームです。
そのため、会社法改正以前においては、一度子会社化した後、将来の追加取得により最終的に完全子会社化をしたい場合には株式交換スキームを活用できず、実務上殆どの場合、М&A案件当事者間で締結された契約に従い、買主企業が追加的に現金対価をもって対象会社株式を売主から取得していく買収スキームが採用されていました。
この様な実務上の理由から、買収資金の資金調達が負担となり、大規模なМ&A案件や手元資金に余裕のない新興企業等による積極的なМ&A案件の阻害要因として問題視されておりました。
改正会社法施行に伴い、株式交付による買収スキームは部分的な株式交換であるとの認識のもと制度設計され、株式交付親会社側は株式交換と同様の法定手続で実行できるものとされました。
また、株式交付子会社側は、譲渡制限付の株式交付子会社株式の譲渡承認請求と株式譲渡承認に係る法定手続以外の規定はございません。ここに株式交付制度と株式交換制度の大きな違いがあります。
株式交付では、株式交付親会社と株式交付子会社の間で、株式交換における株式交換契約のような法定内契約は締結されず、株式交付親会社は株式交付子会社の株主の合意のみに基づき自社株を対価に株式交付子会社株式されます。したがって、株式交付子会社側で、株式交付に係る株主総会決議等は必要とされておらず、株式交付子会社株式に譲渡制限がある場合にのみ、譲渡人による譲渡承認請求と株式譲渡承認に係る法定手続が求められるわけです。
➁株式交付子会社株式を現物出資財産とする株式交付親会社の募集株式の発行等
かねてよりM&A実務では、対象会社のオーナー経営者が自社株を買主企業に現物出資し、対価として買主企業株式を受領する、「現物出資を用いた買収スキーム」が頻繁に用いられておりました。
しかしながら旧会社法の下では、当該スキームをM&A取引において利用した場合、検査役調査の負担、株式交付に応じた引受株主・株式交付親会社の取締役等の財産価額塡補責任リスク、有利発行規制の適用といった点で問題がありました。
会社法改正により従来の問題は解消され、募集株式の発行等の法規制に倣い、引受株主の申込み・株式交付親会社株式の割当て・株式交付子会社の給付の履行等といった法定手続が設計されました。
令和3年度税制改正と株式交付制度
株式交付制度における税務上の論点としては、対価に自社株以外(Boot)を混ぜる「混合対価」が挙げられます。
旧来の組織再編税制では、混合対価によるM&Aは、対象会社の株主には譲渡損益課税の繰延べが否認される等、実務活用推進にあたり税務上の障害を払拭する必要性が認識されていました。
この様な背景から令和3年度税制改正により、株式対価М&Aの実務活用を促進する目的で株式交付制度に即した租税特別措置が実施されました。
令和3年度税制改正の概要
- 株式交付子会社株主の譲渡損益に対する課税繰延措置
※適用要件:交付対価の総価額のうち株式交付親会社株式の価額が80%以上 - 組織再編に係る行為計算否認規定の適用可能性