個別相対方式

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個別相対方式とは、特定の候補者と相対(1対1)でM&A交渉を進める方法です。一般に非公開中小企業のM&A案件で検討される方式で、競争方式(オークション方式)と並ぶ代表的なM&A交渉方式です。

メリット

1.事業の妨げなく、最⼩限の負荷で交渉できる

 代表的なメリットとしては、本⽅式が原則として1対1の交渉であることから、最⼩限の負荷で進めることができる点が挙げられます。多くの買主候補に打診する場合に必要となる資料準備やスケジュール管理等、煩雑かつ負荷のかかる事務⼿続きが軽減できるからです。

2.情報の拡散を最⼩限に抑えられる

 M&A取引における情報の拡散防⽌は、注意してもしすぎることはありません。情報が拡散すると、買主候補から「出回り案件」であると認識され、それだけで深く検討する価値がないと判断される場合もあります。出回り案件」は、多数の買主候補により検討されたにもかかわらずまだクロージングしていない案件ともいえ、「深くDDするとリスクが発⾒されるから誰も買収しないのではないか。そうであれば検討コストをかけるのはリスクだ」と判断されがちなのです。また、売却が失敗した場合を考えても、可能な限り情報拡散していないほうが安⼼です。

3.早期のクロージングが実現できる可能性が⾼い

 最⼩限の負荷で交渉できるということは、準備や取引にかかる時間が短縮できるということも意味します。⼊札⽅式でも、買主候補が「早期に意思決定しないと他社に買収されてしまう」と考えた場合は、きわめて早期の短期クロージングが実現する場合もありますが、⼀般的には個別相対⽅式のほうが検討スピードの速い相⼿であれば時間短縮が図れる可能性が⾼いといえます。

4.難度の⾼い案件の場合に実施しやすい

 業績や財務状態が芳しくない対象会社の場合、広範に⼊札募集をしたところで1件も⼊札がなされないということもしばしば起こります。⼀⾒して状態が芳しくない対象会社の場合、浅い説明と外形的な情報のみでは魅⼒が伝わらないからです。

 このような場合、対象会社の芳しくない点を如何によい点でカバーできるかということ等を、事前に深く検討したうえで特定の買主候補に伝えていくという⽅法が有効に作⽤する場合があります。また、スキームについても特殊なスキームも含め⼗分協議する時間をもつことが可能となります。それらの結果、特定の買主候補に「たしかにそれなら買収する意味がありそうだ」と考えてもらうことができれば、⼊札⽅式で進めた場合には成⽴しえないような取引でも成⽴しうるということもあります。

5.買主側とシナジーについてゆっくり深い議論ができる

 1社または数社の買主候補に対して集中的に時間を費やすことが、幅広く打診する⼊札⽅式よりも有効に作⽤する場合もあります。対象会社の魅⼒を最⼤限にアピールしたり、M&A取引後のシナジー創出戦略等についても1対1で⼗分に事前議論を⾏うことが可能となるからです。

 これにより売却希望⾦額の根拠について理解を促すための説明等も重点的に⾏うことができます。ただし、著者の個⼈的な感覚としては、やはり完全に1対1の個別相対⽅式ではなかなか売主側の交渉⼒が強くならないため、よい結果を⽣まない場合のほうが多いと感じます。

 そこで、⼊札⽇を設定するなど⼀般的な⼊札⽅式の形態はとらないまでも、相対⽅式のプロセスを踏襲しながら数社と並⾏して交渉するといった⽅法が現実的な選択肢としてとられる場合もあります(この場合、「相対⽅式」と呼ぶには違和感があるが)。

6.組織上の親和性等を⼗分に協議・確認のうえ進められる

 個別相対⽅式では、交渉の初期段階から特定の買主候補と深い協議が可能となります。このことは組織上の親和性や役職員の進退または会社の将来像についての擦り合わせ等を初期段階から深く協議し、売主側もある程度明確なイメージをもちながら交渉を進めていくことにつながります。そのような点は、幅広く⼊札させある程度厳密なスケジュールのもとで進めていく⼊札⽅式とは⼤きな相違点といえるでしょう。⼊札の場合は、そういった議論がディール後半にずれ込みます。

デメリット

1.売却条件が売主に不利になりやすい

 原則として、個別相対⽅式は⼊札⽅式に⽐べて売主に有利な条件で売却できる環境を醸成しにくいという点が最も重要な課題です。本⽅式の場合、特に買主候補が1社である場合は、その会社が検討を中⽌するとM&A取引⾃体が終わってしまいます。特に売主が売却を急ぐ理由があれば、このことは交渉⼒の低下に直結します。

2.公正性・客観性の観点では⼊札⽅式に分がある

 本⽅式は法的整理等による再⽣フェーズにおけるスポンサー誘致、出資者の存在する投資ファンド等の投資先売却、上場会社⼦会社の売却等、プロセスの透明性や公平性が求められたり、妥当な価格で売却したことを第三者に説明すべき場合は不向きといえます。

 

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