NOPLAT(ノープラット)

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(↑動画解説はこちら)

NOPLAT(ノープラット)とは、”Net Operating Profit Less Adjusted Taxes”の略で、事業活動のみにより生じた、すべての投資家(株主や債権者等)に帰属する「付加価値」を示す管理会計指標です。日本語では、「みなし税引後営業利益」と表現されることが一般的です。

 M&A実務上では、税効果会計や無形固定資産に係る会計償却、「実税額」と「みなし税額」のズレ等々を徹底的に検討した後、重要な基礎数値としてDCF法等の企業価値評価で用いられることが一般的です。

 

NOPLATと財務諸表の組替え

 NOPLATは、FCF(フリーキャッシュフロー)やROIC等による評価の基礎数値として一般的に利用されます。企業活動を分析し投資の意思決定を実施する為にNOPLATを利用する際は、財務諸表の注記等を参考に財務諸表を組み替える必要があります。財務諸表作成目的は企業価値評価にあるわけではないためです。

 実際、大概の企業の財務諸表の「販売費及び一般管理費」に、年金やオペレーティングリースに関連する費用等が含まれており、それら非営業費用の「営業利益」や「税負担」等への影響を考慮しなければならない。

 

NOPLATの算出方法

 NOPLATの算出では、「営業利益」から「実税額」ではなく「みなし税額(営業利益に対応する税額)」を差し引きます。

※補足:「営業利益」から「実税額」を控除したものをNOPAT(ノーパット)と言い、「税引後営業利益」に相当します。よく似た言葉であるため注意が必要です。

 

①簡易的な算出方法

NOPLAT = EBIT × (1- 実効税率)

 

 簡易的には、「営業利益」を「EBIT」とみなし、「みなし税額」と「実税額」に乖離がないという前提をおいて、上記の計算式で算出可能です。この場合、「NOPLAT」と「NOPAT」の額は一致します。

 しかしながら、上記の計算式は、繰越欠損金もなく、税務的な調整項目もなくまた業績の安定が見込まれる企業におけるNOPLATをざっくり計算したい場合に限定されます。

 

②EBITを用いた算出方法の詳細

NOPLAT = EBIT – EBIT対応税額

 

 のれん償却費等の大きな課税所得計算上の調整項目(この場合「損金不算入」)がある場合、EBITに実効税率をかけても適切な税額が計算できません。このため、税額への影響が大きな差異項目がEBIT計算の過程に含まれている場合にはこれらを調整する必要があります。

 また、繰越欠損金がある場合についても同様で、この場合はEBITを減算調整します。なお、経常的に発生する事業から生まれる損益に対する税額(EBITに関連する税額)ですから、営業外損益項目や特別損益項目にかかる課税所得計算上の調整項目は調整対象とはしません。

 さらにこのことから、「NOPLAT」は企業の資本構成とは独立した利益指標であるが、お分かり頂けるかと思います。

 

③EBITAを用いた算出方法の詳細

NOPLAT = EBITA – EBITA対応税額

 

 顧客関係性や自社ブランドの維持等を目的とした償却性無形固定資産への再投資は費用計上されるが、会計処理に着目すると償却期間中は「償却費用」と「再投資費用」を同じ会計期間で損金経理することになります。つまり、有形固定資産にかかる減価償却費と近しい側面を有すると捉えることができます。

 つまり、計上されている無形固定資産の大半が上記の様に事業運営上、更新再投資が必須である対象会社の場合、EBITAを用いてNOPLATを算出することが適切だと言えます。

 

NOPLATとROIC(投下資本利益率)

 代表的な資本効率指標の1つである「ROIC(= NOPLAT÷投下資本×100)」を算出するにあたり、「投下資本」の定義と辻褄が合う様に「NOPLAT」を設定する必要があります。「投下資本」の定義にも、運用サイド(貸借対照表の借方)と調達サイド(貸借対照表の貸方)からのアプローチがありますが、ここでは「運用サイド」に着目して解説します。

 「運用」という側面から「投下資本」を定義する際には、一般的に「営業活動で活用されている資本(事業投下資産)」を「投下資本」と捉えます。この場合、事業に関連しない「非事業資産」や「非営業活動」に起因して発生する収益・費用項目やそれらに係る税金費用が「NOPLAT」に含まれていては、ROICの計算式の分母分子で整合性が取れなくなってしまいます。

 また一方で、この論点に関連して、実務において「営業利益」を定義付けする際、将来に亘り継続的に見込まれる営業外項目を「営業利益」に織り込む方が適切ではないかという検討がなされることもあります。

 例えば、従業員の社宅用に不動産を法人名義で借り上げているケースです。一般的に、不動産会社に対する「支払家賃(地代家賃)」は「販売費及び一般管理費」として処理し、従業員からの「受取家賃(不動産賃貸料)」は「営業外収益」として処理されます。

 このような場合、財務諸表の組替え時に「営業活動による純粋な収益」として「営業利益」を定義付けすることもあれば、「継続的に発生するFCF(正常収益力)」として「営業利益」に織り込み評価することもあります。

 

税額計算とNOPLATの把握

 実務では、多くの実務家が算式①・②にてNOPLATを算出しますが、対象企業が成長企業である場合、さらに手当てを検討すべき場合があります。なぜなら、本来、FCFおよびNOPLAT計算においてEBITから控除される税額は、EBITに対応する税額の該当期の「納付額(実税額)」とすべきですが、上式では「納付」のタイミングが勘案されていないからです。

 対象会社が成長企業でなければ、上式にてNOPLAT計算に用いた税額(みなし税額)と実際の該当期の「納付額(実税額)」のずれが小さいことも多く、実務上この時期ずれを許容範囲内と考えて特段の追加的調整をせずにNOPLATを計算することがあります。しかし、対象企業が成長企業の場合、大きな誤差が発生してしまいます。 

 このような場合には、EBITに対応する税額の該当期の「納付額」を計算してそれをEBITから差し引くことでNOPLATを求めるべきといえます。「納付額」の計算には、2つの要素を考える必要があります。第一に、当期の法人税等はその翌期に納付されることになる点です。

 第二に、法人税等には「中間申告」という制度があり、これにより期の途中(中間)で定められた税金を納める義務がある点です。中間申告の方法は「予定納付」と「仮決算による納付」があります。前者であれば前期の法人税額の1/2を納付することとなり、後者であれば半年分の仮決算を行いそこから得られる所得額を基準に算定された半年分の税額を納付することとなります。

 「仮決算による納付」は事務負担が大きいため、前期に比べて大幅に業績が落ち込んでいるといったような状況を除き、多くの場合「予定納付」が選択されます。また、中間申告により納付した税額は、本決算の際に計算される税額から控除されます。

 これらに鑑み、実際の該当期の「納付額」を考える際には、「法人税の支払いが翌期となること」と「予定納付の影響」の2点の影響を考慮のうえ「納付額」を計算することとなります。つまり、EBITに対応する税額の該当期の「納付額」は「予定納付額+前期分の税金納付額」で計算されます。具体的には、以下のように計算するとよいでしょう。 

 

予定納付額=前期分のEBIT対応税額×1/2 

 

前期分の税金納付額=前期分のEBIT対応税額-前々期分のEBIT対応税額×1/2 

 

EBITに対応する税額の該当期の「納付額」=予定納付額+前期分の税金納付額 

 

NOPLAT=EBIT-EBITに対応する税額の該当期の「納付額」

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