入札方式(オークション方式)

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 入札方式(オークション方式、ビッド方式)では、プロセスレター等により厳密に売却プロセスの詳細を定め、多数に打診をすることで売却価値の最大化を目指します。

 

 通常、事前に定められる入札日、入札の方法、入札条件、全体のスケジュール等に沿って、入札できる買主を対象にプロセスを進めていきます。

 

 多数への打診を基本とするため、極力、面談を回避してIM等の書面のみで買主が初期的判断できるよう、資料作成に手間をかけます。

入札方式のメリット

①売主に有利な条件で交渉できる環境をつくりやすい

 入札方式の最大のメリットは、売主にとって有利に交渉が進められる可能性が高い点です。通常の商取引でも一定以上高額、かつ希少性が高く相場判断が難しい商品の販売は競売で行われることが多いと思いますが、これはM&Aの世界でも同じです。

 

 多数の買主候補を擁立することができれば、対象会社が魅力的であればあるほど、それぞれの買主候補は他の買主候補に負けないような「売主にとってのよい条件」を提示しようと努力してくれるものです。

 

 買主候補が、競合に対象会社を取得されると将来の自社の事業計画に大きな悪影響が発生しうると考えた場合には、一層、売主にとって有利になります。

 

 さらに、売却プロセスも必然的に売主サイドがコントロールすることとなるため、プロセス設計次第では、ここでも売主に有利な環境を醸成することが可能となります。

 

 たとえば、売主が受諾不可能な条件をあらかじめ整理し、当該条件を要求する買主候補は入札ができない旨を入札条件として設定することで、交渉の初期フェーズで重要条件の調整を図る等といった塩梅です。

 

 また、M&Aの世界でも案件サイズに反比例して「数打ちゃ当たる」といった論理が働く要素が強まることも事実で、多くの買主候補への打診は競争環境の醸成以前にそれだけでもメリットがあるといえます。

②売却条件の公正性・客観性が確保されやすい 

 入札方式によって売却が実現したということは、それを主導した者が株主価値最大化や公正かつ透明な売却プロセスの実現について最大限努力したことを主張しやすくなります。

 

 「売主=対象会社の100%株主」であれば、このような主張を第三者にすべき必要性は低いといえますが、上場会社が子会社を売却する等のケースにおいては、こういった主張ができることが売主側のマネジメントにとっては重要になります。

 

 なぜなら、売主である上場会社の取締役らは当該上場会社の株主にこれらの事項にかかる説明責任を負うことになるからです。もちろん、建前だけでなく入札方式が実際に株主価値最大化へつながる点はすでに説明したとおりです。

③予期せぬ良好な買主候補が現れる可能性がある 

 複数の買主候補に対して一定程度幅広く情報開示することになるので、予期せぬよい買主候補が現れる可能性もあります。異業種の買主候補がきわめて良好な条件で対象会社に関心を示してくれる場合もあります。

 

 M&A取引では、打診してみないと買主候補の興味・関心レベルはわからないものですから、この点では一定程度広く打診する意義は大いにあるといえるでしょう。

入札方式のデメリット

①情報拡散の恐れがある

 当然のことですが、広範に打診すると情報漏洩リスクは上がります。この点は入札方式の典型的なデメリットです。

②買主候補が「競わされている」と感じ心理的軋轢が発生する可能性がある

 買主候補側が「競わされている」という気持ちになり、相互に心理的な軋轢が発生することがあります。

 

 買主候補の経営陣と売主がすでに知り合いで仲がよいという場合等に「なんで他に話をもっていくんだ」という趣旨のことをいわれたという事例もあるようです。

 

 また、稀ではありますが入札案件は検討さえしないという買主候補も存在します。

③買主側が不慣れな場合、円滑に進まない恐れがある

 買主側がM&Aに不慣れな場合、入札方式を経験したことがないことも多く、円滑に進まないこともあります。そこで、次項とも重複するのですが入札を取り仕切るFAにより結果が左右されがちとなります。

④レベルの高いアドバイザーを選定する必要がある 

 入札方式による会社売却は一定の専門性が求められます。少なくとも、売主側のアドバイザリー業務の経験がない担当者にあたってしまった場合、入札のメリットを最大限生かすことができず、逆効果になる場合(情報漏洩等のマイナス面のみが発生する等)さえあります。

 

 優秀なアドバイザーにうまく出会えなければ有効な施策となりにくいという点は、入札方式のデメリットともいえる点でしょう。なお、仲介会社のように売主側・買主側の双方から報酬をもらう会社は、売主側の利益最大化を目的とした本来の入札プロセスを仕切ることは契約上、不可能に近いといえます。

⑤準備に時間と労力がかかる 

 IM、プロジェクションまたはプロセスレター等、入札方式に必要な資料は相当量あります。これら準備に時間も労力もかかる点は入札方式のデメリットとなります。

 

 また、複数の買主が絡む以上、これらの調整という面でも、個別相対方式に比べて一般的にはクロージングが長期化するのが通常です。

 

 ただし、時間はかかるものの、スケジュールはコントロールしやすいといえます。

⑥難易度の高い売却案件の場合、候補者が現れない場合もある

 個別相対方式では1社と深い協議をするので、対象会社の芳しくない点とともに魅力的な点や考えられるシナジー等も初期段階で深く買主候補に伝達できます。

 

 一方、入札方式では、すべての買主候補にそういう時間を割くことはできません。難易度の高い売却案件の場合、入札が1件もないということが起こりえます。

 

 個別相対方式であれば、各種資料の準備にかかる負担も軽く、また入札日を待つことも不要なため、協議しても特定の買主候補が関心を示さなければ次の買主候補へ打診していけばよいということになります。

 

 しかし、入札方式の場合、入札日までは結果が明確にはわからないため、多大な時間と労力をかけて1件も入札がなされないという状態も起こります。

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