コンバーティブル投資手段

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 コンバーティブル投資手段とは、バリュエーション(企業価値評価)の確度が低い段階で、転換条件等を付してリスクマネーを供給するスタートアップ投資の類型をいい、主要なシードファイナンス手法として知られております。

 コンバーティブル投資手段は、コンバーティブル・エクイティ(CE:Convertible Equity)とコンバーティブル・デット(CD:Convertible Debt)により構成されております。

 現在我が国では、経済産業省が称した「コンバーティブル投資手段」という表現が定着し、その手法の中でも特に有償新株予約権型CEが普及しつつあります。

背景と特徴

 シード期の起業家やアーリー期のスタートアップ企業は、革新的で独自的なビジネスを手探りで構築しPMFを見出していくフェーズにあります。機動的な事業の開発運営には、当然ながら迅速な資金調達が不可欠です。

 しかしながら高い不確実性と時間的制約を有するスタートアップ企業の性質を踏まえると、精緻な企業価値評価や投資契約・株主間契約等の締結等のプロセスを辿る一般的なエクイティ・ファイナンスが不適当であるケースが多々見られます。

 その様な背景のもと、米国シリコンバレーのスタートアップ市場を中心に普及し発展を遂げた資金調達類型が、CE(Convertible Equity)やCD(Convertible Debt)です。

 スタートアップ企業のバリュエーションを将来に先延ばしにすることが可能であり、インセンティブ設計の柔軟性と調達手続きの迅速性と簡潔性も確保された、スタートアップ・ファイナンスであるという特徴を有します。

 一般に、コンバーティブル投資手段では、投資家(VCやエンジェル投資家、事業会社等)によるリスクマネー供給時に、株式等への転換価額を設定せず、その算定式のみを事前に決定します。

 そして投資家は、次のステージ(例:シード→シリーズA)への移行やM&A等といったバリュエーションの正確性が高まったタイミング又はバリュエーション・キャップ(Valuation Cap)で、株式等への転換(Convert)を実施します。このため、資金調達ラウンド間のファイナンス需要を繋ぐブリッジファイナンスとして有効です。

コンバーティブル・エクイティ(CE)の概要と手法

 コンバーティブル・エクイティ(CE)とは、あるエクイティから別のエクイティへと転換可能な機能を付与した米国発祥のシードファイナンス手法であり、代表的なスキームとして、Y Combinator開発の SAFE(Simple Agreement for Future Equity)や500 Startups開発のKISS(Keep It Simple Securities)が有名です。

 2014年に米国のFounder Institute創業者CEOアデオ・レッシ氏が、「コンバーティブル・デット(CD)から支払期限と利子の概念を取り払う」というコンセプトで提唱した投資手法です。

 日本法の下では主に、①有償新株予約権型CE、②みなし優先株式方式CE、③無議決権種類株式方式CE、の3種類の投資契約スキームで実現されています。

①有償新株予約権型CE

 有償新株予約権型CEとは、500 Startups Japanが日本版KISS(J-KISS)として設計開発した投資契約スキームで、新株予約権の発行決議にて「転換価額の算定方法」等を決定し、当該新株予約権を投資家に割り当てるという方法です。

 バリュエーション・キャップ(Valuation Cap)やディスカウント(Discount)という概念を利用し、転換価額の算定方法を規定することで、当事者らの利害関係を調整しながらも普通株式への転換比率に幅を持たせることができます。

 

<転換価額の算定方法の例>

転換価額は、以下①②のいずれか小さい価格とする

①次回資金調達ラウンド時の株価×(1-ディスカウント)

②バリュエーション・キャップの上限値÷完全希釈化後株式数

 

 有償新株予約権型CEは、上場会社の主要な資金調達スキームであるMSワラント(Moving Strike Warrant:行使価額修正条項付新株予約権)に着想を得て設計開発されたといわれております。

 CEを新株予約権として取り扱うため定款変更を要せず、加えて新株予約権発行時も低廉な登録免許税で済むというメリットもあり、米国のCEを日本法の下で殆ど完璧な形で再現していると評価されています。

 また、有償新株予約権型CEは、J-KISSの投資契約書が無償公開されていることもあり、コンバーティブル投資手段の中で最も実務で普及しているスキームになります。

②みなし優先株式方式CE

 みなし優先株式方式CEは、Femto Partnersの磯崎哲也氏により考案された調達手法で、普通株式の発行と株主全員の同意のもと、将来的に「適格ファイナンス」に該当する優先株式を用いたファイナンスが実施されたタイミングで、同種の優先株式に転換させるCEスキームです。

 従来の日本のVC実務慣行に即したスキームとして知られ、比較的シンプルな普通株式発行手続きで資金調達が可能であることや、種類株主総会を開く必要がない等のメリットがあります。

 一方で、デメリットとしては、企業価値評価の先延ばし効果を完全には享受できない点、優先株式の転換につき株主全員の合意が必要である点、議決権比率の希薄化、等が挙げられます。 

③無議決権種類株式方式CE

 無議決権種類株式方式CEは、次の資金調達ラウンドの株式への転換権を無議決権種類株式に付与するスキームです。メリットとして、負債計上されないためBSが綺麗に見える効果がある点や、投資家による元利償還権の主張を明確に遮断できる点が挙げられます。

 しかしながら、比較的難解な種類株式発行手続き(定款変更等)を踏む必要がある等の理由から現在において利用されるケースは殆どありません。

コンバーティブル・デット(CD)の概要と手法

 コンバーティブル・デット(CD)とは、負債からエクイティへと転換可能な機能を付与した米国発祥のシードファイナンス手法です。米国においてCDは、主に「Convertible Bond(CB)」、「Convertible Note(CN)」、「Convertible Loan(CL)」により構成されております。

 債権者が転換機能を行使しない限り負債である以上、実際に元利金の支払いを投資家に求めるため、財務基盤の不安定化によるスタートアップ企業の倒産は避けなければいけません。

 日本法の下では主に、①新株予約権付社債(ゼロクーポン・無担保永久劣後債型)、②新株予約権付債券(①を除く。)、の2種類の投資契約スキームで再現され得るとされています。

 ①は、情報請求権や情報提供義務等の条項等を盛り込むといった契約設計次第で、そのメザニン性の度合いに適応したガバナンス機能を確保され得る、「米国のCEを債権の形で再現した投資手段」ではあるが、実務上シードファイナンスにおいて殆ど利用されておりません。

 また、②は、①を除く全てのCDが該当するスキームです。日本でも中期債と新株予約権を組み合わせて米国のCNを再現し導入できないか等といった検討がなされました。しかしながら、創業直後のスタートアップ企業が多額の中期債発行により債務超過状態に陥り、銀行借入れが困難になるといった問題が指摘されました。

 加えて新株予約権付債権の発行は会社法や金融商品取引法の規制を受けるため、発行手続きの煩雑化等も問題視され、普及には至りませんでした。

 

 

 

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